沈黙・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 第一通報チームのリーダー・・・カイトが・・・すでに死亡している。

 

 

 

 リストもドゥーンも鋭い眼つきで黙っている。

 

 いつも茶化してばかりのドゥーンなら、「冗談だろ〜?」とか言いそうなもんだけど・・・

 

 彼らはわかってるんだ。

 イータとエレナの念能力の正確さ・・・・・そしてこれ以上「死」が本当かどうかの議論が無駄だということ・・・

 すでにゲームマスター達は「カイトの死」を受け入れ、確定させ、次にとるべき行動を考えている・・・

 それがこの「沈黙」の意味。

 やはりゲームマスター達は百戦錬磨・・・

 

 

 

 

 でも、こりゃマジでヤバぞ。

 飛ぶタイミングが悪ければ、俺だって殺されていたかも。

 第一通報チームのリーダーが死亡ってことはチームは壊滅だろうし・・・。

 その後、ハンター協会からはネテロ会長の少数精鋭部隊が向かっただけだから、

 現在NGLは完全にキメラアントの支配化ってことだろ?

 や、ヤバイよ。

 

 目を泳がせオロオロしてると横に立つルージュと目が合った。

 『大丈夫かよ、お前?』って目をしてる。。。

 

 

 

 「ちょっといい?

  

  キメラアントの強さの目安になるからさ、

  そのカイトっていうハンターはどれくらいの実力なのよ?

 

 この状況で口を開くなんて、やっぱりルージュは肝が据わってる。

 

 「昔グリードアイランドにジンが連れてきたとき・・・

  そうだな、

  だいたいルージュと同じくらいの強さだったな、多分。

 

 

 え〜〜〜〜〜(;´Д`)

 やばいじゃん! 生まれたばかりでどれほど強いんだよ!

 

 「・・・そんなことより、

 

  イータ・・・いいか、聞くぜ?

  

  カイトと一緒にいたゴンとキルアは無事なのか?

 

 え?

 ゴンとキルアが!?

 何で!?

 

 戸惑う俺に向かって、

 リストは深刻な表情のまま無言でうなづいて見せた。

 

 

 『・・・言われなくても

  ・・・今調べてる最中です・・・

  

  ちょっと待ってて・・・

 

 

 

  ・・・

 

 

 

  ・・よ・・

 

  よかった〜〜〜!!

  

  無事よ! 2人とも生きてます!

 

 会議(ミーティング)越しに溜息が聞こえた。

 多分、ジンの。

 

 ・・・よし!!

 

 「・・・でも、ドゥーンさん

 

 「あぁ、わかってる。

 

 『ジン、

  とりあえずルルーペに説明した方がよくない?

 

 『そうだな。

  ルルーペ、ルージュ、聞いてくれ。

  会長秘書からの連絡で、カイトのチームと同行しているプロハンターが2名いることが俺に伝えられた。

 

 「ゴン=フリークスと、キルア=ゾルディック。

  レイザーのイベントを見ていた君なら知っているはずですよね。

 

 「も、もちろん。

  でもゴンは・・・」

 

 『あぁ俺の息子だ。

 

 「でも何で? ついこの間まで」

 言いかけてやめた。頭の悪い質問をするところだった。

 「・・・そんなことより現状把握しないと、ですよね?」

 

 「そうだね。

 リストは軽く微笑む。

 「彼らの生存は確認できました。

  でも大きく分けて2つの事態が予想されます。

 

 「リスト、それは俺が言う。

  いいなジン?

 

 『もちろんだ。

 

 「まずひとつ、

  敵を倒したか倒してないかはわからないが、

  2人は危険な状況を脱して、安全圏で体制を立て直そうとしている。

 

  そしてもうひとつ。

 

  2人はキメラアントに捕獲され、死ぬ寸前の状態で拷問にかけられている。

  

 「!?

  ・・・そ、そんな。」

 

 「十分ありえるんですよ。

 

 「カイトレベルの念能力者を殺したってことは、

  そのキメラアントは念能力を使用できる。これは100%断言できる。

  生まれて1ヶ月も経過してないのに、超強力な戦闘力と人間レベルの頭脳を手に入れたんだぜ?

  ルルーペ、

  お前がそいつなら・・・どうする?

 

 「・・・。

 

  いきなり産み落とされた世界・・・

  まず知ろうとする。

  情報が欲しい。

  世界の・・・人間の・・・そして、念能力の。

  手っ取り早いのは・・・」

 その先を想像して吐き気がした。

 

 「自分より弱い人間を捕獲し情報を搾り出す。

 

 「残酷ですが、その可能性を無視できません。

  むしろ確率的には拷問にかけられている可能性のほうが高い。

 

 『そういうことだ。

 

 そういうことだ。って、あんたの息子だろ?

 何でそんなに冷静になれるんだ?

 

 

 『ルルーペ。

  どうする? この任務、降りるか?

 

 

 ・・・。

 ちょっとカチンときた。

 

 

 

 

・・・いけ・・・

 

 

 行くさ。

 もうビビらない。だが考えるのをやめたらだめだ。勢いで行動してはいけない。

 最善の策を考え、実行するんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 よし。

 

 

 

 「もちろん、行くよ。

  絶対に逃げない。

  それにゴンとキルアの2人を助けるのなら今しかない。」

 

 「どんな手段を使う?

 

 

 「グリードアイランドの円領域解除中、つまり呪文の範囲が全世界になった状態で、

  この前は(今もだけど)ルーラーオンリー以外の呪文カードの効力をOFFにしたけど、

  同行(アカンパニー)だけ効力をONにすることってできるかな?」

 

 『ええ、できます。

 

 「同行(アカンパニー)を持っているプレイヤー全員の効果範囲が、

  全世界になってしまうのが問題だけど・・・

  そうだな・・・

  1分下さい。

  1分くらいなら誰も使わないでしょ。」

 

 『そうね。大丈夫だと思うわ。

  で? どうするの?

 

 

 「俺は・・・

  

 

  ゴンのもとに飛ぶ!

 

 

  ゴンとはゲーム内で接触したことになってるから、俺のバインダーの中にゴンの名前が入っている。

  同行(アカンパニー)でゴンのもとに飛んだ直後、状況を確認。

  キメラアントに捕獲されているようであれば・・・

  もう一度同行(アカンパニー)を使用して、有無を言わさずゴンとキルアをグリードアイランドに引っ張ってくる。

  キメラアントは呪文の対象外だから、半径20m以内にいたとしても着いては来ない、でしょ?」

 

 『ええ、呪文の対象となるのはグリードアイランドで登録されたプレイヤーに限ります。

  

 

 「ゴンとキルアは瀕死の状態だろうから、

  『大天使の息吹』で回復させてあげて下さい。」

 

 「なるほどな、

  よしまかせとけ。

 

 「で、

  もしゴンとキルアが無事で安全な状況にいると判断できたら、

  そのまま任務に移ります。

  1分間待って俺が帰ってこなければ、グリードアイランドの円領域を復活させて下さい。」

 

 

 「うん、いい作戦ですね。

 

 

 「なんだか・・・

  立派になったもんだな。

 

 「じゃぁ、時間が惜しいからもう行きます。」

 

 『ちょっとちょっと、

  ルルーペ同行(アカンパニー)持ってないでしょ。

 

 「・・・?

  あ、レイザーと戦った時に消されたんだった(;´Д`)」

 

 『ふふふ、

  はい。大丈夫ですよ。

  今ルルーペのバインダーに同行(アカンパニー)2枚追加しました。

 

 「い、いとも簡単に・・・今までの俺達の苦労って・・

  まぁいいや。

  ブック!!」

 

 ほんとだ2枚追加されてる。

 

 『それと、グリードアイランド外ではバインダーの具現化はできないから、

  出発のときにもう一枚の同行(アカンパニー)も抜いておいてね。

 

 あ

 

 あ

 あ、危ねーーーーーーー(;´Д`)!!

 全く考えてなかった!

 お俺もキメラアントに拷問かまされるところだった!!

 「わ、わわわかってますよ。」

 

 う、また冷ややかな目でルージュが見てる。

 あの目はまたしても『大丈夫か?こいつ』の目だ。

 

 「よし・・・

  じゃ行きます。」

 

 「あぁ、頼んだぜ!

 「君ならやれます!

 

 「うん、ありがとう! ドゥーン、リスト!

 

  それと・・・ルージュ、

  

  いろいろあったけど楽しかったよ!

  またどこかで会えるかな?」

 

 「まぁルルーペ次第だな。

 

  無事ならまた会える・・・

  

  いいか、弱いんだから無茶はするな・・・

  死ぬなよ、絶対。

  

 ・・・泣きそうになった。

 ホントにいい仲間に出会えた・・・。

 

 「わかった。

  逃げるのは得意だからさ、大丈夫だよ。」

 

 『あー

  ちょっといいか、ルルーペ、

  ゴンに会ったら俺のこと・

 

 「秘密にしとくんでしょw

  わかってるよ。ゴン達がグリードアイランドを出た後の事は極力喋らないようにする。」

 

 『・・・お、おう。

  わりーな。

 

 これが素のジンだな、多分。

 やっと見せてくれた。

 

 

 『では、同行(アカンパニー)の効力をONに切りかえます!!

 

 

 「・・・。

  ふぅー、

 

  勝負は一瞬・・・ゴンとキルアを連れてくる・・・

  できれば無事でいてくれ。

  そうすればそのまま任務に移れる。

  

  よし。

 

  じゃぁ、1分後に円を復活させて下さい!

  

 

  行くぞ!

  

  同行(アカンパニー) オン!! ゴン!!!

 

 

 

 

 バシュ!!!

 

 

 

 

 

 

   next  ストーキング79「光と闇と影」の巻 絶対見ろよな!ъ( ゚ー^)

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ストーキング79

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 イイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイン!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ザシュ!!!

 

 

 

 

 

 

 状況は!!?

 

 

 

 

 

 ゴン!! キルア!!

 た、倒れてる!!

 オーラは微弱だ、衰弱しきってるように見える!!

 それより!

 ゴンのかたわらに女!?

 ピンク色のオーラを纏ってる!! こんな特殊なオーラ見たことない!

 後姿しか見えない!・・・が! 恐らく人じゃない!!

 キメラアント!?

 クソ! 躊躇(ちゅうちょ)している暇はない!!

 ゴンとキルアが普通じゃないのは事実!

 ここは同行(アカンパニー)で脱出する方が得策だ!!

 よし!

 アカンパ

 動くな!!

 声! 後ろから!?

 くっ!!

 すかさず振り向く!!

 

 あ!!!

 

 「動くとぶっとばすわよ。

 

 

 「き、君は・・・ゴンとキルアの仲間の・・・

  えーっと、

  確か、ビスケ・・・さん?」

 

 少女の表情がピクリと反応した。

 「

  やっぱり今のはグリードアイランドの呪文だわね。

  どういうこと?

  説明なさいな!

 

 ビスケの強さ、俺みたいな素人でも「かまえ」を見ただけで感じる。

 俺が変な行動をすれば、多分次の瞬間マジでぶっ飛ばされるに違いない。それも致命傷の破壊力で。

 この若さで・・・いったい?

 

 周囲を見渡す・・・

 ここは・・・屋敷の一室か・・・

 俺以外には、ぶっ倒れてるゴンとキルア、ゴンに何かしているピンクのオーラの女、そしてビスケだけ。

 

 「わかった、説明する。

  その前に、聞かせてほしい。

  今、ここは安全だね? キメラアントからは遠ざかっている?」

 

 ビスケはこちらを睨んだまま、何か考えている。

 

 「・・・。

  対キメラアントということで言えば、安全よ。今はね。

  あんた何者?

 

 「俺の名前はルルーペ。

  ここに来た理由は・・・ゴメン、あと30秒しかないんだ。

  グリードアイランドにいた君ならわかるだろ、これは呪文カード。

  バインダーから抜いて1分後に自動発動する。

  ゴンとキルアが、キメラアントに捕らえられていた場合、彼らをこの呪文でグリードアイランドに引っ張る予定だった。

  最後に聞かせて、 ここは? 状況は?」

 

 ビスケは動かない。

 

 「ゴンとキルアはキメラアントから逃げてきた。

  ここはNGLの近隣の町よ。

 

 「そうか・・・」

 

 大丈夫だな。

 

 俺は同行(アカンパニー)の魔法カードを、開いてる窓に向かって投げ捨てた。

 

 「ありがとう。

  説明するよ。

 

  まず・・・

  プロハンター、カイトのチームがキメラアントの発生をハンター協会に通報した。

  その情報はグリードアイランドのルーラー達にも伝えられた。」

 

 「ルーラー・・・?

  支配者のことね? でもなんで?

 

 「ハンター協会からある依頼を受けてね。

  その実行役に僕が選ばれた。」

 

 「ということは・・・あんたもゲームマスター?

 怪訝な顔でこっちを見る。

 

 ややこしい説明は抜きだ。軽く流そう。

 「そうだよ。

  レイザーやドゥーンみたいに戦闘タイプじゃないけどね。」

 

 エレナやイータやリストみたいなゲームマスターを知ってるから、

 外見に疑問は感じないはず。あとは口で丸め込む。

 「カイトはグリードアイランドに登録されたプレイヤーだった。

  だから手っ取り早くカイトのもとに飛ぼうとしたんだけどダメだった。」

 

 「! 

  それは・・・死んでたってこと?

 

 「なんだ!? 知らなかったのか?

  ってことは・・・ゴン達も知らないのか?」

 

 ビスケは無言でうなづく。

 

 「そうか・・・。

  

  まぁ、そういうことでカイトと一緒に行動していたゴンのもとに呪文カードで飛んで来たってわけ。

  ゴンとキルアは捕らえられて拷問にかけられている可能性があった。

  だから状況を確認して、ヤバそうだったらグリードアイランドに連れて行く予定だった。」

 

 「・・・。

  とりあえず、わかったわ。

  で? あんたの任務って何?

 

 「会長秘書からの依頼でね、

  少数で討伐に向かったネテロ会長にある物を届ける、それが僕の任務だ。」

 

 できる限り核の部分は喋らないほうがいい。

 必要最小限の説明をするんだ。

 

 「会長秘書・・・

  

  ・・・グリードアイランドのゲームマスターに依頼・・・

 

 

 

 

  

  ・・・よめたわさ。

 

  あんたが届けようとしてるのは『魔女の若返り薬』だわね。

 

 !

 

 「驚いたな・・・正解。」

 

 「協会の内部構造を知ってれば想像できるわさ。

  でも、よくあんた達が請け負う気になったわね。

 ・・・

 するどいな。

 ここは・・・誤魔化せ。

 「まぁ、いろいろあってね。

  それより君達の状況を教えてくれないか?」

 

 ビスケは構えを解いて、両手を腰にあてゴンとキルアの方に視線を移した。

 

 「あの子達がカイトと一緒にNGLでキメラアントを退治してた時にね、

  とんでもない強さのキメラアントに奇襲を受けたらしいんだわさ。

  そのときカイトは、ゴンとキルアを逃がすために敵を引きつけたらしい。

 

  でもやっぱり助かんなかったのね・・・。

 

 「うん。

  残念だけど、それは確かだ。」

 

 「この子達、ネテロ会長に会ってね、『弱い奴は必要ない』みたいなことをズバリ言われたみたいなのよ。

  でもこういうとき、あのじじいは必ず課題を与えるんだわさ。

  とんでもない難易度のね。

 

 「課題?」

 

 「キメラアント討伐隊に加わる資格を得るための課題。

  この町にいる一組のハンターとこの子達、

  勝った方が討伐隊に参加できるってわけ。

 

 「その相手のハンターって強いの?」

 

 「かなりね。

  今のこの子達じゃ勝ち目はない。

  だから現在修行中。まだ始めて2日目だけどね。

  あたしはそのトレーナーってわけ。

 

 「そうか・・・だから修行疲れでダウンしてるんだ。」

 

 「倒れるところまで追い込まないと限界を超えることはできないからね。

  あたしの念能力で、30分もあれば回復できる。

  この子達には時間がないんだわさ。

 

 ゴンの前のピンクの彼女、よく見るとマッサージしてる。

 「ピンクの彼女は君の念能力なんだね。

  回復系の。」

 

 「そういうこと。

 

 「今、ネテロ会長はどこにいるの?」

 

 「さぁ。

  NGLの中のどこかで作戦でも練ってるはずだわさ。

  でもまだ大きな行動は起こさないはず。

  目的は頭を潰すことだからね。

 

 「そうか・・・

  広大なNGLでネテロ会長を見つけるのは・・・キツイなぁ(;´Д`)」

 はぁ〜。

 おもわずうな垂れる。

 

 「じゃぁこうしなさいな。

 

  この子達と相手のハンター達、勝った方はネテロ会長と合流するんだから、

  勝負がつくまでこの町で身を隠して待っておいて、

  それで勝った方に同行すればいいわさ。

 

 ! 

 ・・・め、名案だ!

 余計な危険を冒さずにネテロ会長に辿り着ける、しかもプロハンターの仲間までできる。

 俺は楽して着いていくだけ。

 さ、最高だ!!(´Д`)

 

 「すごい!

  よし、それでいこう!!」

 

 「急にテンション高くなって・・・わけわかんない奴だわさ。

  

  あ

 ビスケはポンと手を叩く。

 「ひとつお願いがあるんだけど、

  この子達にはカイトのこと、今は知らせたくない。

  修行に集中できなくなるといけないからね。

  今は一分が惜しい状況なんだわさ。

  だから決着がつくまでは、この子達には会わないでほしいのよ。

 

 なんだ、そんなことか。

 こちらとしては願ってもない。

 

 「わかった。

  じゃぁこっちからもお願いだけど、

  ゴンとキルアに会うタイミングは自分で決めるから、

  もし勝負が決着したとしても黙っておいてほしい。」

 

 「・・・おかしなお願いだわね。

 

 「今回の件にはジン=フリークスも関わってる。

  ジンからゴンには、自分のことを話さないように言われてるんだ。」

 

 「なるほどね。

  親もそうとうな変わりもんってわけねー。

 ビスケはゴンの方を見て、複雑な表情を浮かべた。

 

 「さぁ、

  そろそろあの子達が目を覚ますわ。

  他に面倒なのがひとりいるし、いつ帰ってくるかわかんないからね。

 

 「わかった。

  じゃぁ決着まで見守ることにするよ。

  で、

  いつ決着?」

 

 「約一ヶ月後ね。

 

 「い、いっかげつ!

  そんなに!?」

 

 「一ヶ月しか、よ!

  大丈夫だわさ、ネテロ会長はそれまでは勝負に出ないから。

 

 ギシ

 

 ギシ

 

 ! 廊下を歩く音!

 

 「ヤバイ。面倒なのが帰ってきたわさ。

 「大丈夫。

  じゃ、ありがとね、ビスケちゃん。」

 

 ガチャ。

 

 ギィィィィ

 

 ゆっくりとドアが開く。

 

 

 う!!

 

 白いワンピースにぐしゃぐしゃで真っ黒な長髪・・・

 素足にサンダル、両手首には包帯を巻いている・・・

 髪が顔にかかり表情がよく見えない。

 

 なんだ! このホラーな女!

 

 「今、、なんか、話声が聞こえた気がするんだけど、、、

 

 「

  あぁ、多分あたしの独り言だわさ。

  気付かないうちに喋ってることあるのよね、最近。

 

  食材の買出しは終わったの?

 

 「、そんなことはどうでもいいの、、

  修行は、順調なんでしょうね、、

  もし負けたりなんかしたら、、わたし、そのときは、

  どうなるかわたし自身にもわからないから、

  でもたぶん、いえ、絶対、あなた達全員を、こr、、s、、、、、

  

 ぶつぶつ言いながら部屋を出て行った。

 や、やべーあの女(;´Д`)

 サ、サイコだ。ホラーだ。

 この屋敷にはいない方がいいな、多分。

 外に出よう!

 

 微妙な空気の流れの変化に気付いたのか、ビスケは正確にこちらのほうを見た。

 

 「なるほど・・・それがあんたの念能力。

  任務に抜擢されるわけだわ。

  

 口元だけで笑顔をつくるビスケ。

 俺がすべてを喋ってないことに気付いてる。

 でも、

 それは君も同じことだ。

 何か、どこか俺と同じにおいがするんだよな。

 

 

  

  

 

 そして俺は屋敷を後にした。

 

 

 

 

    next  ストーキング80「スケスケウォッチング」の巻 絶対見ろよな!ъ( ゚ー^)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ストーキング80

 

 

 

 

 

 

 

 大通りに面したカフェのオープンテラスに座って、

 コーヒーをすすりながら通りを行き交う人を眺める。

 

 

 数人の女の子達が、会話を弾ませはしゃぎながら行過ぎる。

 

 警戒感の一切ない笑顔だ。

 そりゃそうだ。

 もし知ってたら、そんな笑顔でいられるはずがない。

 

 

 今、俺には全裸でおしゃべりしている彼女達の後ろ姿が見えている。

 

 

 

 

 

 ハァハァハァ(*´Д`*)

 

 

 

 

 す、すっげー

 

 

 た、たまんね〜

 

 

 

 この町に来て10日ほど経ったけど全然飽きない。

 だ、だって、全裸だよ!

 しし信じられますか!?

 全裸で平気な顔して歩いてるのだよ!!

 最高だよ、これ、『スケルトンメガネ』。

 至高の念具!

 人類の英知!!

 歴史上最も偉大なる発明品だ!!

 

 ふは〜

 たまんね〜

 

 最初は要領がつかめてなくて、おっさんのヌードが目に入って萎えたりもした。

 でも慣れれば大丈夫ъ( ゚ー^)

 美女以外の存在を視界の端でチラリと確認したら、それ以降はアウトオブ眼中。

 『意識的に視野から消す』というのぞきの高等テクを習得した。

 

 

 スケルトンメガネ最高〜(*´Д`*)

 

 

 ただ、

 ひとつ欠点、いや難点というべきか、

 スケルトンメガネを装着しているとき消える男(サイレントキラー)を発動したら、

 スケルトンメガネの効果が消えてしまうのだ!

 

 つまり、俺が透明になっているときはギャルは服を着ているのだ。

 

 

 なぜだ!? 

 

 いろいろ原因を考えてみた。

 スケルトンメガネ装着時は、もちろんメガネも俺のオーラに覆われている。

 そのオーラを空気と同質に変化させるのが消える男(サイレントキラー)だ。

 能力発動時は俺の姿は透明になる。

 

 今まであんまり考えたことなかったんだけど、

 透明になるってことはだ、

 光が自分のオーラを回折して反対方向へ抜けているってことだ。

 俺の意識に関係なく自動的に。

 で、

 一番重要なのが、透明になってる時でも、俺はちゃんと外の世界が見えてるってこと!

 普通に考えると、『見える』ってことは網膜に光が到達して、それを電気信号化して脳に伝達してるってことだ。

 

 これは消える男(サイレントキラー)の能力と矛盾する。

 もし網膜で光を感知しているとするなら、眼球だけ透明にならないことになってしまうからだ。

 つまり、

 能力発動時、俺は普通の視方をしているのではないらしい。

 おそらくだけど、

 自分の視界に入るべき範囲のオーラに到達した光のビジョンを、電気信号化してそのまま脳に送っているらしい。

 つまり網膜で見ているんじゃないんだ。

 

 オーラで見ている。

 

 だから、オーラの内側でつけているスケルトンメガネの効力は無効ってわけだ。

 当然だよな、スケルトンメガネを通して見てないんだから。

 

 こんなに自分の念能力を分析したことがなかったけど、

 改めて物理的に考えると、恐ろしく複雑な念能力なんだと実感した。

 いや、俺の念能力に限ったことじゃない。

 俺の知っている他人の念能力も、無理矢理、物理的に科学的に説明しようとすると、

 複雑で難解なものばかりだ。

 説明がつくならまだいい。科学的に仮説を立てることすらできない能力も多々ある。

 

 念能力とはいったい何なのか。

 

 なぜ念能力を使える人間と使えない人間がいるのか。

 

 考えても結論は出ないけど、

 そうだな、言葉にすると、、、

 人間の可能性と、、完成形をイメージすること、未来の形が、、、

 

 あーーーーーーーーー!!(`Д´;)

 うまく言えない!

 

 とにかく!!

 今回スケルトンメガネの効力が、消える男(サイレントキラー)によってかき消されたことで、

 念能力は発動した時点で、

 この世界の物理法則に逆らうことはできないことがわかった。

 

 念能力なら何でもありってわけじゃない。

 

 物理的に矛盾すると発動できないんだ。

 2つの念能力が衝突した場合、意思の強さとかそんな曖昧なもので優劣は決まらない。

 結局はこの世界の物理法則の上で、淡々と無情に有効順位が決まるんだ。

 これはちょっとした発見かもしれない。

 この考えに到達できる念能力者は少ないんじゃないだろうか。

 ただ精神と肉体を鍛えるだけが修行じゃないんだ。

 本を読み、世の中のしくみを知り、その知識で賢く判断できるようになることも強さのひとつ。

 

 そうだ

 決めた!!

 俺は肉体を鍛える修行はしないぞ!

 つらいし、しんどいし、面倒くさいし、時間がもったいないし、そんなのは性に合わない。

 武闘派念能力者は目指さない!

 俺が目指すのは、

 そう!

 頭のいい念能力者!!

 うまく生きる、賢く生き残れる念能力者を目指そう!!

 自分の手は汚さず!クールに!!かっこよく!!!

 

 

 

 ってことで、

 

 あと20日くらいか。

 

 つらい修行や命がけバトルは、あの武闘派少年達に任せて、

 別の生き方を目指すボクは、引き続きスケスケウォッチングをエンジョイしようъ( ゚ー^)

 

 こちらは透明になれないんだから、

 あくまで平静をよそおって興奮しよう

 不審に思われないように、ね。

 

 

 いざ!

 スケスケウォッチング!!

 

 

 

 

 

 カフェを出て、目の前の通りを歩く。

 結構人が多い。

 

 

 

 くふ。

 

 全裸だ。

 

 たまんねーよ、ホント(*´з`)

 

 

 そりゃ罪悪感は感じる。

 けど相手は見られてることを知らないんだし、こっちはハァハァできるし、

 誰も傷つけてないんだからオッケーでしょ。

 それにこの少しの罪悪感が、、、エッセンスとなり、ボクのピュアなハートに火をつけるんだよね。

 

 くふ。

 

 

 

 うひょー、

 あの子、着やせするタイプだな。

 

 

 あぁぁ、

 そんなぁ、その姿勢はヤバイって(*´Д`*)

 あ、

 あ、

 

 

 

 

 

 

 ゲ、

 オバサン。。アウト・オブ・眼中モード!!

 

 

 

 うひょ!

 あの娘、イイ!!(*´∀`*)

 

 

 

 

 あ!

 あぁああぁ!

 い、いかん! ルルーペ! それは犯罪だ!

 そそそんな未発達な少女の、、

 堕ちるとこまで堕ちたか!! それは見ちゃいかん、見ちゃいかん、、、が、、

 た、

 た、たまんね〜(;´Д`)

 

 

 

 

 ふひ

 

 

 ふひ

 

 ふひひひひ

 

 

 

 ぼ、ボクは神だ!!

 

 

 かかかかか神になったんだぁ!!!

 

 この世はバラ色だ!!

 いや、肌色だぁ!! ぁひ、ひふふへぇ

 

 

  

 

 ふひ

 

 

 ん?

 

 

 ?

 

 一瞬、異様なものが目に入った。

 

 

 錯覚かと思ったが・・・違う。

 

 

 

 前方からこちらに向かって歩いてくる。

 

 

 

 

 

 昆虫のような関節・・・こ、これは?

 

 

 

 

 

 

 

 

   next  運命の出会いは突然に!!

        次回、急展開!!

        ストーキング81「ジャイロは」の巻 絶対見ろよな!ъ( ゚ー^)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ストーキング81

 

 

 

 ここはNGL近郊の町。

 でもお隣のNGLの存在は微塵も感じない。

 ここで生活する人々は文明社会に巻き込まれ流され、楽しんでいる。

 便利な機械や道具があふれ、町は活気で満ちている。

 笑顔の人が多い。

 いい町だ。

 道路も車や人の往来でにぎやかだ。

 皆のんきな顔でそれぞれの一日を過ごしている。

 いつもと何ら変わらない、平和な町の風景。

 

 でも、俺には見えている。

 

 「行き交う人」の中に、

 「人でない存在」が紛れ込んでいるのが・・・見えている。

 

 

 

 

 な、なんだ? あいつ・・・。

 

 

 周囲を歩く人達は気付いていない。

 

 ってことは、やつは服で身を隠している。

 

 気付いているのはスケルトンメガネを使用している俺だけってことか・・・。

 

 

 

 ・・・。

 

 

 明らかに人じゃない。

 

 異形の存在。

 

 でも・・・俺は知っている、この生物の正体・・・

 

 

 キメラアントだ。

 

 見ればわかる、人間を・・・合成に取り入れている・・・

 

 う・・・

 

 吐き気が・・・

 

 

 俺は歩くのを止めて、携帯電話をいじるふりをする。

 

 

 やつの方をちらりと見る。

 

 俺とは進行方向が逆だ。

 みるみる近づいてくる。

 

 その距離、約30m。

 

 

 俺は消えてない。

 

  

 

 ど、どうする?

 

 今すぐ消える男(サイレントキラー)を発動すべきか?

 

 い、いや待て、

 

 そんなことをすれば、消えることができる念能力者の存在が仲間のキメラアントに伝わる、、、

 

 警戒される、、、それどころか消える瞬間を見られたら、俺の外見を仲間たちに報告されかねない。

 

 今後、圧倒的に潜入しづらくなる。

 

 

 あと20m・・・。

 

 

 

 そうだ、

 やつには・・・俺は普通の人間に見えているはず。

 

 キメラアントの存在を知らない平和ボケした人間、

 今の俺は群集の中のひとりに過ぎない。

 

 大丈夫、気付かれない、、、大丈夫、

 落ち着いて普通に振舞っていればいい。

 

 携帯電話で話す素振りに切りかえる。

 

 

 あと10m。

 

  

 う、

 間近で見て気付いた、、、

 

 な、なんて禍々しいオーラだ、、、

 

 ・・・それがキメラアント特有のオーラなのか、、、それともこいつだけの性質なのか・・・

 

 攻撃的だけどピリピリしたオーラじゃない。

 ゾワゾワうねるイメージ・・・周囲のすべてを侵食するような・・オーラ自体が意思を持っているかのようにうごめいている。

 

 そう、これは、

 まるで・・・悪意の具現化だ。

 

 

 

・・?

こいつは・・・

 

 

 5m。

 

 もう、やつの方は見れない。

 

 ザ、

 

 足音が聞こえる。

 

 

 

 

 冷や汗が頬を伝う。

 

 

 

 

 

 息が詰まる、、、

 

 

  

 

 

 

 

 ザ、

 

 

 

 

 

 

 と、

 

 通り過ぎた。

 

 

 ・・・ハ、

 ハァ、

 

 ハァ、

 

 よ、よかった。

 

 

 助かった。

 

 

 

 やつは服を着て身を隠して行動している。

 恐らくは、隠密行動中なんだ。

 理由は情報収集のための偵察か・・・それとも別の何かを意図してのことか。

 

 やつが念能力を使えるとして・・・

 周囲を警戒して歩いているわけだから、凝とまではいかないかもしれないが目にオーラを集中させているはず。

 俺、ヘボい能力者で助かった。

 もし腕が立つ念能力者なら、日常纏うオーラにもただならない気配がにじみ出すもの、、だ、、、

 

 

 

 

 ャ、

 

 ヤバイ、、、

 

 

 顔から血の気がひく。

 

 

 重大なことに気が付いた。

 

 

 俺自身はヘボ念能力者だ。

 纏うオーラも達人のそれじゃない。

 でも・・・

 スケルトンメガネ、、、こいつはヤバイ。

 

 俺も最初にスケルトンメガネを見たときは驚いた。

 

 異様なオーラが常にスケルトンメガネを覆っていたからだ。

 

 すぐれた念具には、共通して見られる現象だ・・・ドゥーンが言ってた。

 

 スケルトンメガネもかなりの念能力者が製作したに違いない。

 

 やつは・・・

 

 この念具に気付いただろうか?

 

 もし気付いたなら興味を持つはず。

 

 産み落とされて間もないキメラアント・・・

 

 真っ先に欲するのは『情報』のはず・・・

 

 未知なるものには必ず興味を示す・・・

 

 

 

 激しい緊張でめまいがする。

 

 

 

 俺は携帯を耳にあてたまま、ゆっくりと振り返る。

 

 

 

 やつは、、、

 

 

 

 やつは10m先を反対方向へ歩いている。

 

 

 よ、よし。助かった。

 

 

 とにかく、この場から離れよう。

 やつと反対方向へ歩き出すために振り返ろうとした、

 その瞬間、、

 

 

 

 やつは、、、歩くのを、、、、、止めた。

 

 

 

 

 ・・・。

 

 

 

 

 無言で・・・地面を見ているのか・・・うつむきかげんで立ち尽くしている。

 

 

 

 

 

 周囲を人々が通りすぎる。

 

 男女の話し声。

 子供が母親を呼ぶ声。 

 笑い声。 車の音。

 その街にある当たり前の音が、ますます俺とやつの存在を浮き立たせる。

   

 

 

 二人だけの時間が止まったかのような違和感。

 

 

 

 

 も、

 もう・・・ダメだ!!

 消えて回避する!!!

 

 

待て

 

 

 消える男(サイレントキラー)!!!

 

 

 

 ?

 

 

 え?  

 

 き、消えてない!?

 

 

 

あるいは・・・こいつならば

 

 

 

 消える男(サイレントキラー)!!!

 

 

 !?

 

 な、なんだこれ!!?

 俺の念能力が発動しない!!?

 

 

 くそ!!

 なぜだ!!?

 

待てと

言ってるだろう

 

 

 !! だ、

 誰だよ!! なんなんだよ!! お前!?

 

 

 !!

 ぐ!! しまっ・

 

 やつは、

 ゆっくりと頭を上げ、

 

 

 まるでスローモーションのような動作で・・・

 

 

 

 振り返る。

 

 

 

 

 周囲の雑音はいつの間にか消えていた。

 

 

 

 

 俺は動けなかった。

 

 もう携帯で話す素振りもしていない。

 

 ただ、石畳の歩道に立ち尽くしている。

 

 

 

 そして、昼の街の不思議な静寂の中・・・

 やつと・・確実に目が合った。

 

 

  

 

  

 

 

 今言えることは・・・

 

 俺の念能力は何者かによって阻止された・・・

 

 気付いてはいた・・・最近になって内面に現れた『声』

 

 俺の知らないところで、あらかじめ用意されていた歯車が・・・

  

 今突然動き出そうとしている

 

 俺の意思とは関係なく

 

 動き出す

 

 

 

 そう、

 

 俺とやつは出会ってしまったんだ・・・

 

 それが互いにとって幸運なのか否かは、、、まだわからない・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第一部

「完」

 

 

 

 

 

 

長い間ご声援ありがとう!!

マスター先生の次回作にご期待ください!!

 

 

 

↑(冗談です。時が来れば尾行日記また再開させます。)

inserted by FC2 system